Stories Behind the Songs: Chuck Rainey
数々の素晴らしい曲に携わってきたチャック・レイニー。
アメリカのウェブマガジン「no treble」で、50年間に及ぶセッション活動の中からベスト12を選出し、それぞれの曲に対しての想いを述べています。どの曲に対しても、実直なコメントが掲載されていて興味を惹かれます。
ではこの12曲を、チャック来日時に聞いたコメントと共にお伝えしようと思います。
1. “Rock Steady” — from Aretha Franklin’s 「Young, Gifted and Black (1971)」
来日していた時にも話されていましたが、この曲はデモテイクが採用されたとのこと。
チャック曰く「ジェリー・ウェクスラー(プロデューサー)とトム・ダウト(エンジニア)がスタジオに着く前には取り終えていたんだよ」そして、「毎朝この曲に挑戦したんだけど、これ以上のものは録れなかったよ」とも。
アレサがピアノを弾き、どんな曲かを伝えて貰い録音されたこの曲は、リズム録りではダビングなし。
デモテイクならではの、新鮮なグルーヴが聞けます。
2. “Until You Come Back to Me” — from Aretha Franklin’s 「Let Me in Your Life (1973)」
同じくアレサの曲で、いろいろなミュージシャンもカヴァーしている名曲。
ベースをスライドする奏法は「最初から自分のスタイルの一部」とあり、
この曲では多いに活用したとのこと。
ここでは、ジェームス・ジェマーソンについても触れています。
「ジェームス・ジェマーソンとは、親しい友人ではなかったのですが、たくさんの話しを聞いていました。この曲は、彼の1-5-1(音程)の感覚と、バーナード・パーディのグルーヴの恩恵を受けました」チャックは、今でもこの時のグルーヴを覚えているようです。
3. “Sanford & Son Theme (The Streetbeater)” — from Quincy Jones’s 「You’ve Got it Bad Girl (1973)」
69年A&M(レーベル)時代から、チャックはクインシー・ジョーンズの録音に参加していますが、
これは73年、アメリカでジャズアルバムチャート1位を獲得した名盤からの1曲です。
「クインシーは、とても優れたプロデューサーです。録音仕事の時、最初譜面がありません。
ギターのデヴィッド・T—ウォーカー、ドラムのジェイムス・ギャドソンやハーヴィー・メイソンなど、
それぞれのパート楽器奏者がセッションして、それをクインシーが聞き、キーを指定され、
皆自分で譜面に書き込みます。10分もすると、譜面が出来上がっていました」
前に、チャック自身から聞いた話しをお伝えしましょう。
「クインシーには、いつもひらめくアイデアがたくさんあって、それを瞬時に取り入れる天才だ!」
まさに不動の名プロデューサーですね。
4. “You, Me and Ethel / Street Walking Woman” — from Marlena Shaw’s 「Who Is This Bitch, Anyway (1974)」
毎年行なわれるマリーナの代表曲で、チャックお気に入りの曲。
「私はこの曲が大好きです。なぜなら、ファンクとジャズの両方の要素がはいっているからです」
またこの2つの要素の前後には、スウィングが取り入れられています。
チャックは、この曲のリズムセクションをこよなく愛しており、このメンバーでの演奏を毎年楽しみにしているそうです。
ラリー・ナッシュ(keys)、デヴィッド・T—ウォーカー(guitar)、ハーヴィー・メイソン(drums)。
今年も、きっと素晴らしい演奏を聞かせてくれるでしょう。
5. “Gone Away” — from Roberta Flack’s 「Chapter Two 」(1970)
ダニー・ハザウェイがアレンジしたこの曲では、最初ベースパートの譜面があり、
ダニーから「ベースチューニングを下げて演奏できるかい?」と聞かれたそうです。
この頃はまだ5弦ベースがない時代ですね。
またこの曲には、いくつか難しいセクションがあり、困惑しているとダニーが私の後ろに立ち、私の上から腕を入れて、「こうやって弾いてみてくれるかい?」と優しく示唆してくれたそうです。
ダニーの暖かい人柄を感じたこの事は、「決して忘れる事が出来ない事」だったと綴っています。
6. “Reverend Lee” — from Roberta Flack’s 「Chapter Two 」(1970)
この曲も同じくロバータ・フラックのアルバムから。
チャック曰く、「ベースから始まるこの曲では、最初ベースラインが決まっていました。
しかしダニーは私に多くの自由を与えてくれました。
そして曲のなかでは、多くのスライド奏法を多様しました」
またダニーについて、この様に話しています。
「彼は偉大なリーダーであり、優れたベースラインを作成する方法を知っています。
この曲は、ロバータと私が仕事をする上で、ある種事件のようなものでした」
一旦曲が終わった後、再度イントロが聞ける事からも、この事がうかがえます。
7. “Kid Charlemagne” — from Steely Dan’s 「The Royal Scam 」(1976)
ラリー・カールトンのソロが素晴らしい、あまりにも有名なスティーリー・ダンの曲。
ニューヨークからロスに移った頃の仕事で、約1年を費やしています。
「プロデューサーのゲイリー・カッツとは、ニューヨーク時代にも一緒に仕事をしていました。
この曲が持っているエネルギーは素晴らしく、私は1-5-1(音程)スタイルに基づいてプレイしたのを覚えています」
チャックは、このアルバム(The Royal Scam)の時のセッション全てに当てはまる事だとして、この様に述べています。
「最高のセッションは迅速に行なわれるものだと思います。その事を理解して貰えるなら、最高なものは最初のテイクか2番目、3番目くらいまででしょう。この曲は、一番最初のテイクで録音したと思います」
新鮮さによる感性は、とても重要な事だと教えてくれています。
8. “80 Miles An Hour Through Beer-Can Country” — from Gary McFarland’s 「America the Beautiful 」(1967)
60年代からLAで活躍したビブラフォン奏者・アレンジャーのアルバムで、オーケストレーションの入った、サウンド・トラックレコードです。
「彼とは良い友達で、自由に録音する事ができました。
CBSスタジオに入ると、オーケストラがスタンバイしていたのを覚えています。
ゲーリーは、ベースを別録り(別のブースで録音する)にしていませんでした。
なので、私はオーケストラと一緒に録音をしました。
ある日街のそばで、途中2時間のセッションをする予定が入り、私の代わりとしてジェリー・ジェモットが呼ばれていました。
録音が終わり、立ち去る時にストリングの方たちから心暖まる拍手をもらいました。
私がドアの外に出て行こうとすると、ジェリーが入ってきたのですが、彼はチャックが拍手をもらったことが不思議でならないようでした。それはとても特別であると感じさせました。皆にお薦めするアルバムですよ」
チャックにとって良い想い出のある、出来事だったようです。
9. “Groovin’” — from The Young Rascals「’ Groovin’」 (1967)
チャックはこの頃、ジェリー・ウェクスラーのいるアトランティック・レコードの主力ベーシストで、
いくつもの録音仕事をこなしていました。これもその頃のレコーディングでの事。
どうやらラスカルズはバンドでの録音を望んでいたようです。
「当時、ラスカルズとはあまり仲よくやっていくような感じではありませんでした。
フェリックスはオルガン奏者であり、ベースパートもオルガンで弾いていましたが、
プロデューサー(ジェリー・ウェクスラー)はベーシストを雇う事を望んでいました。
録音に入ると、部外者なのだと感じましたよ。
私はオルガン奏者(特にジミー・スミス)から影響を受けているので、
オルガンの持つベース音を容易に弾く事ができました。
しかし既に自分のスタイルを持っていたので、オルガンベースの音ではなく、
ベースの音で録音することにしました。
最終的に我々は、全員この曲に満足する事ができました。
これは、最もシンプルなベースラインを持つ、愛すべき曲となったんです」
この曲は、今でもたくさんの人に愛されていますね。
10. “Get Back” — from Shirley Scott and the Soul Saxes’s 「Shirley Scott and the Soul Saxes」 (1968)
シャーリー・スコット。日本ではあまり聞き慣れない名前ですが、
1950〜60年代に活躍した女性オルガン奏者。
このナンバーは、ビートルズの名曲ですが、ここではとてもファンキーなナンバーに仕上がっています。
この中で、チャックが言っているように「信じられない程の音をベースで表現しました」
そして「それは自分がプレイし、私のスタイルだと言うこともわかっています。
しかしこの曲を聞くと、他の誰かがプレイしたのではないかと思ってしまいます」
最後にどこかで誰かが言ったそうです。「チャック、今日は君の日だよ」と。
一度聞いてみるとわかりますが、とにかく凄まじいベースラインを聞く事ができます。
11. “Just a Kiss Away” — from Allen Toussaint’s 「Motion」 (1978)
ニューオーリンズの巨匠アラン・トゥーサンのアルバム。
プロデューサーはジェリー・ウェクスラー。
ギターにラリー・カールトン、ピアノはリチャード・ティー。
チャックはこの時のドラマーをバーナード・パーディと言っていますが、アルバムクレジットにはジェフ・ポーカロと記載されています。
「おそらく今までプレイした中で最もファンキーなナンバーで、バーナード・パーディは実にグルーヴィーで素晴らしい演奏をしていました」「自分のバンドでは、この曲をシャッフルで演奏しています。このような曲を歌いながら、ベースを弾く事が私の課題です」
自身のバンドでは、ほとんどの曲をチャックが歌っています。
12. “Sister Sadie” — from King Curtis’ 「Soul on Soul 」(1973)
チャックのキャリアが始まった60年代、キング・カーティスのバンド、キング・カーティスオールスターズ(キング・ピンズ。アレサ・フランクリンのバックバンドでもあった)に参加する。62年にオハイオからニューヨークに移り、輝かしいキャリアがスタートする時に出会った伝説のサックス奏者、それがキング・カーティスでした。
「60年代に、コンサートでこの曲を良く見たものです。それが彼のバンドで演奏するとは、夢にも思っていませんでした。
とてもテンポの早いジャズの曲で、ベース奏者だったジミー・ルイスは、指でその曲を弾いていました」
チャックがこのバンドに加入する時「大丈夫なのかな?」と心配をし、またキング・カーティスの出すカウントが、「あまりにも早かったので戸惑った」と書かれています。
その時チャックお気に入りのドラマーの1人で、バンドのドラマー「ボビー・ダーハム」からこう言われたそうです。
「チャック、君は素晴らしいプレイヤーだよ。だからあまり考えすぎないように。
迷っても怖がらずにグルーヴし続ければ良いのさ」
その後、レコーディングで自分が迷ってもプレイを続ける事ができ、上手く仕事をやり遂げることができたそうです。
チャックは最後にこのように言っています。
「この曲を聞くと、どこかでジミー・ルイスが私に微笑んでいる気がします」
Stories Behind the Songs: Chuck Rainey
莫大なレコーディングを行なった記録は、本サイトの「DISCOGRAPHY」でご覧いただけます。
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